A:日本で発電に使われている原子炉にはPWR(加圧水型原子炉)とBWR(沸騰水型)の 2種類があります。 PWRでは、炉心から発生した熱を蒸気発生器まで運ぶ一次系と 蒸気発生器でできた蒸気をタービンに送って発電する2次系に分かれているのに対して、 BWRでは炉心内で出来た蒸気を直接タービンに送って発電しています。 福島第1原子力発電所は、すべてBWRを用いた発電所です。 発電量、原子炉圧力容器や格納容器の大きさ、 原子炉に入っている燃料集合体数などは、 東京電力のホームページ で見ることができます。 なお、今回の事故とよく比較されるスリーマイル島原子力発電所は、PWR型です。 また、チェルノブイリ原子力発電所は旧ソ連で独自に開発された原子炉で、 炉心に大量の黒鉛を用いている、格納容器に相当するものが備わっていない、 などPWRやBWRとは構造が大きく異なります。
A:原子力発電所の安全性は、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の機能で 保たれています。 福島第一原子力発電所での事故は、「冷やす」の機能が想定外の大津波によって 正常に働かなかったことによるもので、その結果として「閉じ込める」の機能も 損なわれてしまったことによるものです。
A:燃料被覆管が高温になると、その周りの水と化学的に反応して、 水素ガスが発生します。これが酸素と爆発的に結合するのが「水素爆発」です。 なお、「水爆」は、水素同位体の原子核を高温・高密度で一定時間 (例えば、1億℃以上、密度100兆個/cm3、1秒間以上)閉じ込めて 核融合させ、大量のエネルギーを作り出す特殊な核爆弾です。 原子力発電所ではけっして起こりません。
A:原子炉や使用済核燃料貯蔵プールの中の核燃料は、核分裂反応は止まっています。 しかし燃料中には、核分裂によって生じた新たな生成物が蓄積されています (これを核分裂生成物と呼びます)。 核分裂生成物は、しばらくの間は熱を出し続ける性質があるため、 この熱を除去するために冷却を続ける必要があります (この熱を崩壊熱(Q12)と呼んでいます)。 現在は、発電所内のポンプが使用できないため、 原子炉および使用済核燃料貯蔵プールに外部から注水することで冷却を行っています。 今後は、電源を復旧させてポンプによって水を循環させ、 炉心やプールの水を熱交換器で放熱してから再び炉心やプールに戻すことで持続的な熱除去を可能にして、事故を収束させようとしています。 なお、Q5の崩壊熱の量に関するQ&Aで述べているように、 炉心や使用済核燃料貯蔵プール内の燃料の発熱量は運転時の値に比べて 相当に小さいため、 熱交換器を介した水の循環が復活すると問題なく熱を除去することが出来ます。
A:原子炉の停止直後は、運転時の出力の6%程度の崩壊熱(Q12)が発生し、 1時間後には1.5%程度まで低下します。 その後は、ゆっくりと低下し続け、3日で0.4%程度、 1ヶ月で0.2%程度になります(下図参照)。 福島第1原子炉の停止(3月11日)から20日後(3月31日時点)での発熱量は、 2号機の炉心で5500KW程度と見積もられます。 この熱は、水を1日で200ton蒸発させる熱量に相当しますが、 運転時の発熱量の400分の1以下ですので、 原子炉に水が注入され冷却系統が一部でも復旧すると問題なく除熱できます。 使用済燃料貯蔵プール中の燃料は、これより遥かに長い期間が経過していますので、 発熱量は相当に小さいと考えられます。 報道によれば、1号機から6号機の燃料貯蔵プールの発熱量は表1の通りです。 (報道では発熱量の単位ははKcal/時でしたが、kWでも表示しています。 また、プールから1日に蒸発する水の量も示してあります。)
使用済燃料貯蔵プールに置かれた燃料集合体の発熱量 | ||||||
号機 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
発熱量(Kcal/時) | 6万 | 40万 | 20万 | 200万 | 70万 | 60万 |
発熱量(kW) | 70 | 465 | 230 | 2300 | 800 | 700 |
蒸発量(ton/日) | 2.7 | 18 | 9 | 90 | 30 | 26 |
満水時保有水量(ton) | 1020 | 1425 | 1425 | 1425 | 1425 | 1497 |
A:現在までの被害状態は、政府機関や原子力関連機関の広報などからの情報をまとめますと、下のようになります。現時点では限られた状況のもとでの情報ですので、一部不正確な部分もあることをご承知の上でご覧ください。
(平成23年4月12日現在)
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関連URL: 原子力安全保安院、 日本原子力産業協会 |
A:1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故には似ていますが、1986年にソ連(現:ロシア)で起きたチェルノブイリ原発事故とは原子炉のタイプ、事故原因、その被害規模などの点で大きく違います。
A: Q7のQ&Aにもあるように、 チェルノブイリ原子力発電所の事故は反応度事故と呼ばれるもので、 原子炉の暴走によって出力が急激に上昇して原子炉が瞬時に破壊されました。 その後、燃料の周囲にある大量の黒鉛が燃焼することで上昇気流を引き起こし、 放射性物質を北半球全域に撒き散らす結果となりました。 福島第一原子力発電所では地震と同時に原子炉の核分裂反応は止まっています。 現在、炉心内で発生している熱は、ウランの核分裂ではなく核分裂で出来た 放射性物質の崩壊熱によるもので、 その量は運転時に炉心で発生していた熱エネルギーの 数百分の1ですので(Q5のQ&A)、 チェルノブイリのような大規模な爆発を引き起こすことはないと思われます。 また、炉心の周囲には黒鉛のような大量の可燃物もありませんので、 大規模火災の心配もありません。 したがって、燃料の冷却が出来なくなるという最悪のシナリオを想定した場合でも、 チェルノブイリのように炉心内の放射性物質の大半が飛散し、 北半球全域を汚染させることにはならないと考えられます。 しかし、発電所周囲のかなり広い地域に深刻な放射能汚染を引き起こすことにはなりますので、これを避けるために炉心の冷却を続ける必要があります。
A:原子力発電所を所有している電力会社では、今回のような大地震と大津波による事故を踏まえ、応急および今後の対応として以下のような対策を進めています。
応急の対応として以下のようなことを実施しています。
今後の対策として以下のようなことを検討しています。
詳しくは、各社のホームページをご覧ください。
A: すでに枝野官房長官や東電関係者が言及しているように、 少なくても炉心燃料が融解したと考えられる1〜3号炉は廃炉となるでしょう。 原発の解体はすでに我が国を含む世界各国で実施されており、技術的に実施可能です。 大きな課題は、原発の状況を把握した上で、作業員の被曝と費用を抑えながら、 安全に解体する手法の最適化を図る必要があることです。 また、解体で発生する放射性廃棄物の処理・処分について準備しておく必要があります。
A: TMI事故は,1979年3月28日に起こりました。
この原子力発電所はPWR型の原子炉で、事故の発端は蒸気発生器に水を送り込む給水ポンプの故障によるものです。
その後、種々のトラブルや運転員の操作ミスがあいまって、炉心が水面上に露出し、燃料のほぼ50%が溶融しました。
ただし、冷却用ポンプを駆動する電源系統は正常だったため、約16時間後には炉心の冷却が可能になり、4月2日には原子炉内に残っていた水素の除去に成功し、その後、4月27日には原子炉が十分に低温の状態に回復し、事故は一応の終息をみました。
チェルノブイリ事故は、1986年4月26日に発生しました。
運転員の規則違反とこの原子炉独特の特性があいまって原子炉が暴走して出力が急激に上昇し、水蒸気爆発と水素爆発によって、炉心と原子炉建屋が破壊されるとともに燃料周囲に置かれた黒鉛の火災が始まりました。
4月27日からは遮へいや消火のためにヘリコプターにより鉛、ホウ酸、石灰石、粘土などが大量に投下され、事故から10日目の5月5日には火災はほぼ鎮火しました。
その後、6月から原子炉を覆うコンクリート製の建物(いわゆる石棺)の建設が始まり11月に工事が終了しています。
しかし、この応急の建物の密閉性は低く、核燃料は内部に手つかずで残されたままで、完全な終息とは言えない状態です。
最近では建物の老朽化も著しく、新たな対策が必要とされていますが、実行には至っていません。
A:原子炉でウラン235 やプルトニウム239 が核分裂した際に生じるエネルギー(核分裂のエネルギー)の8割以上は、核分裂で生じた2個以上の軽い元素(核分裂生成物)の運動エネルギーになります。
このエネルギーはすぐに燃料に与えられ、結果として燃料から熱が発生することとなります。
一方、運動エネルギーを失った核分裂生成物の多くは、
原子核に含まれる陽子の数と中性子の数のバランスが悪く、
その後もエネルギーの高い不安定な状態にありますが、
ある時間が経過すると崩壊し、よりエネルギーの低い安定な状態(あるいは別の原子核)に変化します。
(不安定な原子核が崩壊して元の数の1/2になる時間を半減期といい、原子核の種類によって異なる固有の値を持っています。)
この安定化の際に余剰となったエネルギーが、中性子、β線、γ線などの形で放出されることとなります。
この安定化は1回だけとは限らず、原子核の崩壊が複数回繰り返されるケースもあります。
こうして放出されるβ線やγ線のエネルギーが崩壊熱の源です。
原子炉での核分裂が止まった直後は、
短い半減期の核分裂生成物による崩壊熱が大きく、
その後時間が経過すると、
比較的長い半減期の核分裂生成物によって崩壊熱が生み出されます。
原子炉の停止直後は、運転時の出力の6%程度の熱が発生し、
1時間後には1.5%程度まで低下します。
その後は、ゆっくりと低下し続け、3日で0.4%程度、 1ヶ月で0.2%程度になります。
(Q5の崩壊熱の量に関するQ&A参照)
A:地震の最大規模はマグニチュード7.9(M7.9)、また津波の高さは最大で5.7mを想定していました。 この規模の地震や津波が来ても、止める・冷やす・閉じ込める、の機能が正常に働き原子炉の安全性を確保することが出来る設計になっていましたが、実際にはM9.0の地震が発生し、14〜15mの津波が第一発電所を襲いました。
A:原子力発電所の運転期間が終了し、老朽化のため廃炉にする場合について説明します。 原子炉のタイプや出力などによって発生する放射性廃棄物の量は異なります。 たとえば廃炉が始まっている中部電力浜岡原子力発電所2号機は、 福島第一原子力発電所2号炉と同じ沸騰水型原子炉(BWR)で、 ほぼ同じ電気出力ですが、 発生すると推定される低レベル放射性廃棄物は、 放射能レベルの比較的高いもので約100トン、 放射能レベルの比較的低いもので約1,200トン、 放射能レベルの極めて低いもので約7,900トンとされます。 またこれ以外に、 放射線管理区域内にあったものの放射性物質として扱う必要のない廃棄物が約13,400トン、 放射性廃棄物ではない廃棄物が約249,500トン発生すると見積もられています。
A:原子炉で用いられた原子燃料は、 使用済み燃料再処理工場においてウランおよびプルトニウムが回収され、 残った核分裂生成物がガラス固化されて、 高レベル放射性廃棄物として地下数百メートル以深の安定な岩盤中に「地層処分」されることとなっています。 一方、使用済み燃料を取り出した後に原子力発電所を解体すると低レベルの放射性廃棄物が生じます。 これらは、放射性物質の種類やその濃度を考慮した上で、「トレンチ処分」、「ピット処分」、あるいは「余裕深度処分」と呼ばれる方法で地中に埋設処分されます。
A:東京電力の発表によれば、 福島第一原子力発電所には4月27日現在で8万7500トンの高濃度の放射性廃液(汚染水)がタービン建屋地下やピットにあるとされます。 汚染水中には多種の放射性物質が含まれていると推定されますが、 放射性濃度が高い放射性核種はI-131、Cs-134、Cs-137です。 これらは放射能としては高濃度でも、元素の濃度としては極めて微量です。 一方、当初、海水を冷却に使用したことから、 汚染水には塩分が多く含まれていると考えられます。 また、津波で破損した機器やタンクなどから放出された、 機械油や燃料油も混じっていることが予想されます。 従って、汚染水の処理では、相当量の塩分や油を含んだ水から、 微量のヨウ素およびセシウムを除去することが求められます。 一般に、水の浄化法としては、 蒸発処理法、ろ過法、凝集共沈法、吸着・イオン交換法などがあります。 汚染水中にはヨウ素とセシウムのように化学的挙動が異なる放射性物質が含まれていることからも、 1種類の浄化方法で処理することは難しく、 複数の処理方法を組み合わせて最適な処理が行われるものと考えられます。